リモート環境で「誰かに頼りたい」を言えない心理:あるエンジニアの協力依頼体験談
リモートワーク環境では、同僚の様子が見えにくく、ちょっとした質問や協力を求めることにも心理的なハードルを感じることがあります。「今、忙しいかな」「こんな簡単なこと聞いても良いのかな」といった迷いから、一人で抱え込んでしまう経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このような「誰かに頼りたい」という気持ちを表現しにくい状況は、個人の課題解決を遅らせるだけでなく、チーム全体の生産性や、お互いをサポートし合う文化の醸成にも影響を与えかねません。これは、リモートワークにおける心理的安全性の重要な側面の一つと言えます。
今回は、リモートワークで「助けを求める」ことに関する心理的な壁と、それを乗り越えるための具体的な体験談、そしてチームで実践できる小さな工夫についてお話しします。
リモートでの「頼れない」が生まれた瞬間
私自身、リモートワークに移行して間もない頃、小さな課題に直面しました。ある機能開発で、以前触ったことのないライブラリを使う必要が出てきたのです。ドキュメントを読んだり、既存コードを参考にしたりしましたが、どうもしっくりきません。チームにはそのライブラリに詳しい先輩がいました。
「先輩に聞けばすぐに解決するだろう」とは頭では理解しています。しかし、チャットツールを開いて、先輩のステータスが「オンライン」なのを確認しても、なかなか話しかける一歩が踏み出せませんでした。
なぜ躊躇したのでしょうか。当時の私の心理は、以下のような状態だったと思います。
- 相手の状況が見えない不安: オフィスであれば、先輩の席に行って様子を伺うことができますが、リモートではチャットツールのステータスしか情報がありません。もしかしたら、ものすごく集中している最中かもしれない、急ぎのタスクに取り組んでいるかもしれない、と想像すると、声をかけるのが申し訳なく感じました。
- 自己解決へのプレッシャー: エンジニアとして、まずは自分で調べるべきだという思いが強くありました。簡単に人に頼ってはいけないという、良くも悪くもプロフェッショナル意識がブレーキをかけていた部分もあります。
- 質問の質への不安: 曖昧な質問をして、相手の時間を無駄にしてしまうのではないかという恐れもありました。
結局、自分で解決しようと粘り続け、本来なら1時間もかからないような部分に数時間を費やしてしまいました。そして、期日が迫ってきたため、意を決して先輩に質問したところ、ものの5分で解決策を教えていただけたのです。この時、「もっと早く聞けばよかった」と強く後悔しました。同時に、この「頼れない」という心理が、自分自身の成長やチームの効率を妨げていることを実感しました。
「頼りたい」を伝えやすくする小さなアクション
この経験から、私はリモート環境で「助けを求める」「協力をお願いする」ことに対する考え方を少し変え、いくつかの小さなアクションを意識するようになりました。
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依頼の「前フリ」と「所要時間」を伝える: いきなり本題に入るのではなく、「〇〇の件で、少しご相談してもよろしいでしょうか?」といった前置きを入れるようにしました。さらに、「内容はXXで、多分△分くらいで終わると思います」と、相手にかかるであろう時間や内容の概要を伝えることを意識しました。これにより、相手は「今対応可能か」「後で対応すべきか」を判断しやすくなります。
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「相談ベース」で切り出す: 「〜〜を教えてください」という一方的な質問ではなく、「〜〜について悩んでおりまして、ご意見をいただけないでしょうか」「△△を実装したいのですが、進め方にご存知のことがあればお伺いできますか?」のように、相談や協力を求める形で投げかけるようにしました。これにより、相手も「教える側」というより「一緒に考える側」として関わりやすくなる場合があります。
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非同期コミュニケーションの活用: すぐに返信が必要な内容でなければ、チャットで質問内容を整理して投稿することを躊躇しないようにしました。相手が都合の良い時に確認し、返信できるため、リアルタイムで反応を待つストレスが軽減されます。質問する側も、自分の考えや状況を落ち着いて整理する時間を持つことができます。ただし、急ぎの場合はその旨を明確に伝えるようにしています。
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小さく「頼る」練習をする: 最初は、ドキュメントの場所を尋ねる、簡単な仕様を確認するなど、心理的なハードルが低い質問から試してみました。快く答えてもらえる経験を積み重ねることで、「聞いても大丈夫だ」という安心感が少しずつ醸成されていきました。
チームとして「頼られやすい」環境を作る工夫
依頼する側の努力と同時に、チームとして「頼られやすい」環境を作ることも非常に重要です。私のチームで効果があったと感じる工夫をいくつかご紹介します。
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質問・相談チャネルの明確化: 特定の技術やプロジェクトに関する質問はどのチャネルで行うか、誰にメンションすべきかなど、コミュニケーションのルールを明確にしました。「この件はこの人に聞けば良い」ということが分かると、質問のハードルが下がります。
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相談可能な時間帯や状況の共有: 特定の曜日や時間帯を「オフィスアワー」のように設けて、気軽に質問・相談できる時間を設けたり、カレンダーに「集中タイム」「相談OK」といったブロックを入れたりすることで、相手の状況を推測する負担を減らす工夫をしました。
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質問へのポジティブな反応: 質問や相談が来た際に、すぐに反応すること(「今、手が離せないため〇分後に確認します」など)や、質問内容に対して感謝を伝えること(「良い質問ですね」「気づきをありがとう」など)をチーム内で意識するようになりました。これにより、「質問して迷惑がられたらどうしよう」という不安を軽減できます。
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ドキュメント文化の醸成: よくある質問や、技術的な知見を積極的にドキュメントに残す文化を作ることも大切です。これにより、自己解決の糸口が増え、また「ドキュメントを見ても分からなかった」という前提で質問しやすくなります。
まとめ
リモートワークにおける「誰かに頼る」「助けを求める」ことの心理的なハードルは、多くのエンジニアが経験しうることです。しかし、それを乗り越え、チーム内でお互いに協力し合える関係性を築くことは、個人の成長やチーム全体のパフォーマンス向上に不可欠です。
「頼れない」と感じる背景にある自身の心理に気づき、まずは「前フリを入れる」「時間を伝える」といった小さなアクションから試してみてはいかがでしょうか。そして、チームとしても「頼られやすい」環境を作るための工夫を話し合ってみる価値は大きいでしょう。
お互いを信頼し、困った時には安心して「助けてほしい」と言える。そんな心理的に安全なチーム環境は、リモートワークをより快適で生産的なものにしてくれるはずです。