リモート安全体験談

リモートコードレビューで「言いたいことが言えない、伝わらない」を乗り越える:小さな工夫と体験談

Tags: リモートワーク, 心理的安全性, コードレビュー, コミュニケーション, ソフトウェアエンジニア

はじめに:リモートコードレビューの難しさと心理的な壁

ソフトウェア開発において、コードレビューは品質向上や知識共有のために不可欠なプロセスです。しかし、リモートワーク環境では、対面でのちょっとした相談や非言語的なコミュニケーションが難しくなるため、コードレビューにおけるコミュニケーションに課題を感じる方が少なくありません。

特に、経験数年程度のエンジニアの方からは、「書いたコードへのフィードバックが厳しく感じてしまう」「質問したいことがあるが、テキストでうまく表現できるか不安」「レビューコメントの意図が掴みにくい」「自分の意図がレビュアーに伝わっているか心配」といった声を聞くことがあります。このようなコミュニケーションの課題は、心理的な負担となり、チーム内での発言をためらったり、最悪の場合、心理的安全性を損なうことにも繋がりかねません。

本記事では、リモートワークにおけるコードレビューで実際に筆者やチームメンバーが経験した具体的な課題と、それを乗り越えるために試した「小さな工夫」や考え方についてご紹介します。

体験談:レビューコメントの真意が掴めず悩んだ日々

以前、筆者は自身のPull Requestに対して、レビュアーから短いコメントで複数の修正指示を受け取った経験があります。そのコメントは簡潔で技術的には正しい内容でしたが、なぜその修正が必要なのか、他に代替案はないのかといった背景情報が不足していました。

当時の私はリモートワークに慣れ始めた頃で、このコメントを見たときに「自分の書き方が悪かったのだろうか」「レビューアーを煩わせてしまったかもしれない」といった不安を感じました。また、コメントの真意や意図が分からず、どのように対応すれば良いのか迷いました。テキストベースのコミュニケーションでは、トーンやニュアンスが伝わりにくいため、短いコメントでも冷たく感じたり、厳しく受け止めてしまうことがあります。

結局、いくつかの疑問点がありましたが、テキストで質問の意図を正確に伝える自信がなく、また、忙しいレビュアーの手を煩わせたくないという思いから、質問することを躊躇してしまいました。結果として、指示された通りの修正を行いましたが、心の中にはモヤモヤが残り、コードへの自信を少し失ってしまったような感覚がありました。この経験から、リモートでのコードレビューにおける心理的安全性の重要性を強く認識しました。

なぜリモートのコードレビューは難しく感じやすいのか

このような心理的な壁が生じやすい背景には、リモートワーク特有のコミュニケーション環境があります。

心理的安全性を高めるための具体的な小さなアクション

これらの課題に対し、筆者やチームで試行錯誤し、効果的だと感じた「小さなアクション」や考え方をご紹介します。これらはすぐに試せるものばかりです。

レビューイーとしてできること

  1. Pull Request (PR) の説明を丁寧に書く:
    • 単に「〜を実装しました」だけでなく、「なぜこの変更を行ったのか」「どのような課題を解決しようとしているのか」「特に見てほしい点」「悩んでいる点や懸念点」などを具体的に記述します。
    • これにより、レビュアーはコードの背景にある意図を理解しやすくなり、より的確なフィードバックが期待できます。
  2. 疑問点は具体的に質問する:
    • レビューコメントに対して疑問がある場合、「よく分かりませんでした」だけでなく、「〜という理解であっていますか?」「〜の理由をもう少し詳しく教えていただけますか?」など、具体的な質問を心がけます。
    • テキストでの説明が難しい場合は、「もし可能であれば、5分ほどお時間をいただき、画面共有でご説明いただけますでしょうか?」と、短いオンラインミーティングを提案することも有効です。
  3. ポジティブなフィードバックにも応答する:
    • 良い点や感謝のコメントをもらったら、「ありがとうございます!」「〜という点を意識して実装しました」など、感謝や簡単な補足で応答します。これにより、レビュアーとの良好な関係構築につながります。

レビュアーとしてできること

  1. ポジティブなフィードバックを最初に伝える:
    • 改善点だけでなく、「〜の設計は素晴らしいですね」「〜の書き方は参考になります」といった良い点を具体的に伝えます。これにより、レビューイーは建設的なフィードバックとして受け止めやすくなります。
  2. なぜその修正や提案をするのか、意図を明確に伝える:
    • 単に「ここを直してください」ではなく、「保守性を高めるために〜」「〜というパターンを避けるため」など、背景や理由を添えます。これにより、レビューイーは納得感を持って修正に取り組めます。
  3. 質問形式で投げかける:
    • 断定的な口調ではなく、「〜の可能性は考慮されていますか?」「もし〜とした場合、どうなりますか?」など、問いかける形式でフィードバックを伝えます。これにより、レビューイーはプレッシャーを感じにくく、一緒に考える姿勢が生まれます。
  4. 絵文字を活用する:
    • テキストだけでは伝わりにくい感情を補完するために、LGTMには👍、質問には🤔、感謝には🙏など、絵文字を適切に活用します。ただし、チーム内での慣習や文化に合わせることが重要です。
  5. 必要に応じて短いミーティングを提案する:
    • 複雑な問題やテキストでの説明が難しい場合は、「この件について、5分ほどオンラインで話せますか?」と短いミーティングを提案します。これにより、認識のずれを素早く解消できます。

チームとしてできること

  1. コードレビューガイドラインを策定・共有する:
    • チームとして「どのような点をレビューで重視するか」「コメントの書き方の推奨スタイル」「非同期レビューと同期レビュー(ミーティング)の使い分け基準」などを明文化し、共有します。これにより、レビューの質が安定し、お互いの期待値のずれが減ります。
  2. 心理的安全性を意識した文化を醸成する:
    • 「レビューはコードに対するものであり、個人を攻撃するものではない」という共通認識を持つことが重要です。リーダーや経験豊富なメンバーが率先して、建設的でポジティブなコミュニケーションを実践します。
    • 失敗を責めない、質問しやすい雰囲気を作るなど、日頃からのチームの雰囲気作りも影響します。

小さなアクションがもたらした変化

上記の小さなアクションを意識し始めてから、コードレビューにおけるコミュニケーションが以前よりスムーズになったと感じています。例えば、筆者がPRに「〜の点で迷っています」と正直に書くようになったことで、レビュアーから的確なアドバイスをもらえる機会が増えました。また、レビュアーとしてコメントに意図を添えるようになったことで、「コメントの背景が分かりやすく、助かります」といった反応をもらえることもありました。

テキストコミュニケーションだけで全てを解決しようとせず、必要に応じて短い通話や画面共有を活用することも、誤解を防ぎ、効率的に問題を解決する上で非常に有効です。これらの小さな工夫は、一つ一つは些細なことかもしれませんが、積み重ねることで、チーム全体の心理的安全性を高め、リモートワーク環境でも安心してコードレビューに取り組める土壌を育んでいくことに繋がると実感しています。

まとめ

リモートワークにおけるコードレビューは、非同期コミュニケーションが中心となるがゆえの難しさがあります。しかし、レビューイー、レビュアー、そしてチームそれぞれが少しの工夫を意識することで、これらの課題を乗り越え、心理的安全性を確保することが可能です。

Pull Requestの丁寧な説明、コメントの意図を伝える、質問形式での提案、必要に応じた同期コミュニケーションの活用など、ここでご紹介した小さなアクションは、どれもすぐに実践できるものです。これらの実践を通じて、リモート環境でもお互いを尊重し、安心してフィードバックし合える文化を育んでいくことが、結果としてチーム全体の生産性向上や、個々の成長に繋がると考えられます。

心理的安全性の高いコードレビュー文化は、一朝一夕に築かれるものではありません。しかし、一人ひとりが小さな一歩を踏み出すことから、その変化は始まります。ぜひ、今日からできることから試してみてください。