リモート安全体験談

リモートでのミス報告や質問が怖い?:あるエンジニアの小さな壁の乗り越え方

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リモートワークで「報・連・相」に壁を感じることはありませんか?

リモートワークが浸透し、働く場所や時間に柔軟性が生まれた一方で、コミュニケーションの形は大きく変化しました。オフィスであれば、席が近いため気軽に声をかけられたり、相手の状況を察して話しかけたりすることができました。しかし、リモート環境では主にチャットやビデオ会議を通じてコミュニケーションを取る必要があります。

このような環境の変化の中で、特に経験年数が数年のエンジニアの方々から、「ちょっとしたことを質問するのをためらってしまう」「ミスに気づいたけれど、どう報告すれば良いか分からない」「忙しそうな相手に話しかけるのが申し訳ない」といった声を耳にすることがあります。これは、リモートワークにおける心理的安全性が十分に確保されていない状況で起こりやすい課題の一つと言えます。

ミスや不明点を抱え込んでしまうと、問題が大きくなったり、手戻りが発生したりするだけでなく、自身の成長機会を失うことにも繋がります。では、私たちはこの心理的な壁にどのように向き合えば良いのでしょうか。

「質問・報告をためらった」小さな体験談

私自身もリモートワークに移行した当初、同様の壁に直面した経験があります。

あるタスクを進める中で、仕様の一部について曖昧な点があり、どのように実装すべきか判断に迷うことがありました。オフィス勤務時代であれば、近くの先輩エンジニアに「すみません、この部分について少しお伺いしてもよろしいでしょうか?」とすぐに声をかけられた状況です。

しかし、リモート環境では、チャットでメッセージを送るしかありません。チームのチャネルは活発に情報が流れており、個別の質問を送ることでその流れを妨げてしまうのではないか、といった懸念がありました。また、メンションして良いものか、今送ったら迷惑ではないか、など様々な考えが頭を巡りました。結果として、メッセージ作成画面を開いたまま数十分が経過し、結局その場での質問を断念してしまいました。

代わりに、過去の類似実装を探したり、自分で仕様を推測して進めてみたりしましたが、自信がないままコードを書き進めるのは大きなストレスでした。案の定、後からレビューで認識のずれが発覚し、大幅な修正が必要になりました。このとき、「あの時すぐに質問していれば、こんなに時間を無駄にせず済んだのに」と強く後悔しました。

また別の機会には、テスト中に自身のコーディングミスによる軽微なバグを発見しました。幸い、影響範囲は限定的でリリース前でした。しかし、チームに報告する際に、「またミスをしたと思われるのではないか」「評価に響くのではないか」といった不安がよぎりました。数分間、チャットで報告メッセージをどう書くべきか悩みました。結局、「軽微なバグですが、私の不注意で発生させてしまいました。修正済みです。」と簡潔に報告しましたが、送信ボタンを押す際には、心臓が少し速くなったことを覚えています。幸い、チームからは特に厳しい反応はなく、「報告ありがとう、修正助かります」といった返信がありましたが、あの報告前の数分間は、心理的な負担が大きかったと感じています。

これらの体験から学んだのは、「早期の報・連・相」が自身の心理的な負担を減らし、結果的にチーム全体の効率を高めるという事実でした。そして、そのためには、私自身が小さな行動を起こす必要があると気づきました。

小さな心理的な壁を乗り越えるための具体的なアクション

このようなリモートワークにおける「報・連・相」の心理的な壁を乗り越えるために、私自身が実践し、効果を感じている「小さなアクション」をいくつかご紹介します。すぐにでも試せる、ハードルの低い内容ばかりです。

1. 質問や相談の「入り口」を定型化する

チャットで質問や相談のメッセージを送信する際、最初の言葉に迷うことが多いものです。「すみません、質問なんですが…」といった漠然とした入り方よりも、用件を明確にするための定型句をいくつか用意しておくと、メッセージを書き始めるハードルが下がります。

このように、まず何の件について話したいのかを端的に示すことから始めます。これにより、相手も内容を把握しやすくなり、スムーズなやり取りに繋がりやすくなります。

2. 質問内容を具体的に、状況を簡潔に添える

ただ「分かりません」「できません」と伝えるのではなく、何が分からず、何に困っているのかを具体的に伝える準備をします。自分でどこまで調べて、何を試して、どのような選択肢で迷っているのか、といった状況を簡潔に添えると、相手はより的確なアドバイスをしやすくなります。

このように情報を整理してから質問することで、漠然とした不安が解消され、メッセージ作成へのハードルも少し下がるでしょう。

3. ミス報告は「事実」「影響」「対応」をセットで

ミスを報告する際は、感情的にならず、以下の3つの要素を簡潔に伝えることを意識します。

  1. 事実: 何が起きたのか(例: デプロイしたバージョンXにバグYが含まれていることが判明しました)
  2. 影響: そのミスの影響範囲や深刻度(例: このバグにより、ユーザーがZという操作を行えません。影響ユーザー数は推定N名です)
  3. 対応: すでに実施した、またはこれから実施する対応策(例: 原因は特定できており、修正コードをレビュー依頼中です。本日中にリリース可能な見込みです。)

このように整理して伝えることで、報告を受ける側も状況を素早く正確に理解でき、適切な対応を取りやすくなります。事実と対応策に焦点を当てることで、自身の心理的な負担も軽減されます。

4. チームメンバーの「話しやすさ」に貢献する

自分自身が質問や報告をしやすい環境を作るには、チーム全体の心理的安全性を高めることも重要です。他のメンバーが質問や報告をした際に、肯定的な反応を示すことを心がけます。

このような小さな行動は、チーム内の信頼関係を構築し、皆が安心して発言できる雰囲気作りに繋がります。自分がチームに貢献することで、自分自身もチームに頼りやすくなるという良い循環が生まれます。

5. チームの「報・連・相」ルールを理解し、必要なら提案する

チームによっては、デイリースクラムで必ず「Stuckしていること(困っていること)」を共有する、特定のチャネルで質問を受け付ける、といったルールがある場合があります。これらのルールを理解し、それに沿って行動することで、心理的なハードルが下がることがあります。

もし、現在のチームのコミュニケーションルールが「報・連・相」をしづらいと感じる場合は、改善を提案することも検討できます。例えば、「デイリースクラムで、最後に一人ずつ『詰まっていることや助けが必要なこと』を共有する時間を設けませんか?」といった具体的な提案は、チーム全体の心理的安全性を高める一歩となる可能性があります。

まとめ:小さなアクションから始めてみましょう

リモートワークにおける「報・連・相」の心理的な壁は、多くのエンジニアが経験することです。それはあなたが能力不足であることや、チームに受け入れられていないことを意味するものではありません。単に、オフィスとは異なるコミュニケーションの形に慣れるための過程で生じる自然な壁かもしれません。

本記事でご紹介した「小さなアクション」は、どれもすぐに実践できるものばかりです。完璧を目指す必要はありません。まずは一つでも良いので、次回の質問や報告の際に試してみてはいかがでしょうか。

「報・連・相」を恐れずに行えるようになることは、あなた自身の成長を加速させ、チーム全体の生産性向上にも繋がります。そして何より、不要なストレスから解放され、より気持ちよく仕事に取り組めるようになるでしょう。小さな一歩を踏み出すことから始めてみてください。