リモート安全体験談

リモートで「自分の役割がよく分からない」と感じる不安:あるエンジニアの小さな実践談

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リモートワーク環境では、オフィス勤務のように隣席の同僚に気軽に話しかけたり、チーム全体の雰囲気を肌で感じ取ったりすることが難しくなる場面があります。特に、新しいプロジェクトに参加したり、これまでとは異なる種類のタスクに取り組んだりする際に、「自分に求められている役割がどこまでなのか」「チームからどのような成果を期待されているのか」といった点が不明確になり、漠然とした不安を感じることがあります。

この不安は、何を優先して進めるべきか、どこまで詳細に詰めれば良いのか、あるいは他のメンバーとの連携をどのように取るべきか、といった判断を難しくします。結果として、必要以上に時間をかけてしまったり、逆に確認不足のまま進めてしまったりといった状況を招きかねません。また、「期待に応えられなかったらどうしよう」という懸念から、発言や相談をためらい、心理的な安全性が損なわれることにも繋がり得ます。

経験数年程度のソフトウェアエンジニアであれば、このような状況に直面することは少なくないでしょう。技術的なスキルは身についてきても、プロジェクトマネジメントやチーム内での立ち回りといった側面で、不慣れさを感じることがあります。

あるエンジニアが感じた役割不明確による不安

以前、あるエンジニアが新しい技術スタックを用いたプロジェクトにアサインされた際、類似経験者がチーム内に少なかったこともあり、自身の役割や具体的な期待値について不明確さを感じていました。

プロジェクトの全体像や他のメンバーの担当範囲は共有されていましたが、自身の担当部分において「この機能の設計はどの程度まで考慮すべきか」「どのレベルのテストまで自身で行うべきか」「チーム全体のスケジュールの中で自身のタスクはどの程度の重要度を持つのか」といった点が曖昧でした。

リモート環境だったため、ちょっとした疑問をすぐに解消できる雰囲気を感じにくく、また、他のメンバーがどのように作業を進めているのか、どの程度のペースで成果を出しているのかといった様子も見えにくかったため、自身の進捗や品質が適切なのかどうかの判断に迷うことがありました。

この状況が続くと、「もし方向性を間違えていたら、大きな手戻りになってしまうのではないか」「期待されるレベルに達していなかったら、評価に影響するのではないか」といった不安が募り、タスクに着手する際の心理的なハードルが高くなっていきました。コードを書くこと自体よりも、その前段階の「何を、どこまで、どのように行うか」を判断する部分で立ち止まってしまう時間が増えていったのです。

不安を乗り越えるための「小さな実践」

このエンジニアは、この不安を解消し、安心して業務を進めるために、いくつかの小さなアクションを試みることにしました。

  1. タスクの「次の一歩」と期待値の具体化:

    • 漠然としたタスク全体について悩むのではなく、まず「次に行うべき具体的なステップ」を特定し、そのステップにおける自身の役割や期待されるアウトプットをチームリーダーや関係者に確認するようにしました。
    • 例えば、「〜の設計に着手しますが、特に考慮すべき点はありますか?」「〜の実装を進めますが、まずはプロトタイプを作成し、一度認識合わせをすることは可能でしょうか?」といった形で、具体的なアクションとセットで質問することを意識しました。
    • 確認する際には、「このステップが完了した状態として、どのようなレベルを期待されていますか?」や「次の〇〇さんの作業のために、私の担当部分は何をどこまで完了させておく必要がありますか?」のように、後続のプロセスやチーム全体の流れの中での自身の位置づけを確認するようにしました。
  2. 自身の理解の言語化と共有:

    • ミーティングや非同期コミュニケーションで共有された情報に対して、「私の理解では、〜という認識ですが、合っていますでしょうか?」や「次のマイルストーンまでに、私が担当するべきは〜と〜であり、それぞれの完了基準は〜ですね。この認識で間違いありませんでしょうか?」といった形で、自身の理解を具体的に言語化し、確認のために共有することを習慣にしました。
    • これにより、認識のズレを早期に発見できるだけでなく、「自分は状況を正確に把握しようとしている」という姿勢を示すことができ、心理的な安心感に繋がりました。
  3. 定期的な短い確認時間の確保:

    • 週に一度、チームリーダーやメンターと5分〜10分程度の短い確認時間を設け、タスクの進捗状況だけでなく、「今週、特に意識して取り組んでほしいこと」「何か懸念していることはないか」といった、期待値や役割に関するすり合わせを行う機会を作りました。
    • これは形式ばったレビューではなく、あくまで短いカジュアルな確認の時間と位置づけることで、相談のハードルを下げることができました。

これらの「小さな実践」は、劇的な変化をもたらすものではありませんでしたが、自身の役割や期待値に対する不明確さを少しずつ解消していく上で非常に有効でした。何を、どこまで、どのように進めるべきかの解像度が上がるにつれて、漠然とした不安は軽減され、目の前のタスクに集中できるようになりました。また、積極的に確認や共有を行うことで、チームメンバーとのコミュニケーションも円滑になり、孤立感も和らいでいきました。

まとめ

リモートワーク環境下で「自分の役割がよく分からない」「どのような成果を期待されているのか曖昧だ」と感じることは、決して珍しいことではありません。このような状況は、心理的な負担となり、業務の円滑な遂行を妨げる可能性があります。

今回ご紹介した体験談のように、大きなアクションではなくても、タスクの「次の一歩」における期待値を確認したり、自身の理解を具体的に言語化して共有したり、定期的な短い確認時間を設けたりといった、小さな実践を積み重ねることで、役割や期待値の不明確さを解消し、心理的な安心感を高めることができます。

これらの小さな一歩が、リモートワーク環境でより自信を持って、そして安心して業務に取り組むための一助となれば幸いです。