リモート安全体験談

リモートワークでの技術的な手詰まり感:あるエンジニアの「SOSを出す」小さな工夫

Tags: リモートワーク, 心理的安全性, エンジニア, 困り事, SOS, コミュニケーション

リモートワークで一人で抱え込んでしまう技術的な手詰まり感

リモートワークが普及し、柔軟な働き方が可能になった一方で、オフィス勤務とは異なる新たな課題も生まれています。特に技術的な調査や実装に行き詰まった際に、「誰に聞けば良いのだろう」「忙しい相手の時間を奪ってしまうのではないか」といった心理的な壁に直面し、一人で抱え込んでしまう経験を持つエンジニアの方は少なくないかもしれません。

物理的に近くにいないからこそ、相手の状況を把握しづらく、気軽に声をかけにくいと感じることがあります。結果として、長時間一人で悩み続け、非効率な時間の使い方をしてしまったり、問題解決が遅延したりするだけでなく、精神的な疲弊につながることもあります。これは、チーム全体の心理的安全性にも影響を与えかねない課題です。

今回は、私自身がリモートワークで技術的な手詰まり感を経験し、それを乗り越えるために試みた「小さなSOSの出し方」と、そこから得られた学びについてお話しします。

技術的な壁にぶつかり、数時間一人で悩んだ体験

ある機能開発に取り組んでいた時のことです。特定のフレームワークの挙動が想定と異なり、原因究明と解決に手間取っていました。ドキュメントを読み込み、様々なパターンを試しましたが、なかなか解決の糸口が見えません。時間だけが過ぎていきます。

オフィス勤務であれば、近くの席の同僚に「ちょっといいですか?」と声をかけたり、ホワイトボードを使って議論したりすることで、比較的早く解決できたかもしれません。しかし、リモート環境ではそうはいきません。チームのコミュニケーションツールは主にチャットとビデオ会議です。

チャットで質問を投げかけようとしても、「こんなことで質問して大丈夫か」「もしかしたら、調べればすぐに分かることなのに、周りの時間を無駄にさせてしまうのではないか」「自分で解決できないと思われたらどうしよう」といった考えが頭をよぎり、なかなかチャットを開く指が動きません。結局、数時間もの間、一人でエラーメッセージやコードと向き合い、出口の見えないトンネルを進んでいるような感覚に陥っていました。

この時、技術的な困難さ以上に、「誰かに助けを求めることへの心理的な抵抗」が、私を孤立させていたのだと気づきました。

「SOSを出す」ための小さなアクションを試す

このままでは良くないと感じ、勇気を出して状況を打開するための小さなアクションを試みることにしました。完全に解決策が見つかるまで一人で粘るのではなく、「困っている状態」を素直にチームに共有してみようと思ったのです。

いくつかの小さな工夫を凝らしました。

  1. 質問を「解決策」ではなく「困っている状況」の共有から始める: 「〇〇の機能で、△△という問題が発生しており、現在調査中です。××や□□は試しましたが、まだ原因が掴めていません」のように、まず事実と試したことを簡潔に共有しました。いきなり「教えてください」ではなく、自分が置かれている状況と努力の過程を伝えることで、相手に状況を理解してもらいやすくなると考えました。

  2. 具体的な質問の粒度を小さくする、あるいは質問の形式を工夫する: 「この問題について何かご存知の方はいませんか?」というオープンな問いかけから始めたり、「もし同じような経験がある方がいらっしゃれば、少しヒントをいただけないでしょうか?」と具体的な助け方を提案したりしました。これにより、回答する側のハードルを少しでも下げられると考えました。

  3. 非同期コミュニケーションを意識した声かけ: 「今お時間ありますか?」ではなく、「〇〇について少しご相談したいのですが、本日または明日、いつか少しお時間いただくことは可能でしょうか?」のように、相手が都合の良い時に返信できるよう配慮しました。

小さな一歩がもたらした変化

これらの小さなアクションを恐る恐る試した結果、驚くほど早い反応がありました。チームメンバーの一人が、「その問題、以前自分も似た状況になったことがありますよ」と声をかけてくれ、少し話す時間を設けてくれたのです。

話してみると、私が気づいていなかった別の可能性や、調査の方向性に関する貴重なヒントを得ることができました。結果として、一人で何時間も悩んでいた問題が、その後の短時間で解決へと向かい始めました。

この経験から、リモートワークにおける「SOS」は、完璧に問題を分析し、洗練された質問を準備してから行う必要はないのだと学びました。むしろ、「困っている」という状態を早期に、そして具体的に共有すること自体が重要なのです。そして、チームメンバーは助けを求めることに対して、自分が思っていた以上に肯定的である場合が多いということも実感しました。

まとめ:リモートでの「困った」を一人にしないために

リモートワーク環境で技術的な困難に直面した際、一人で抱え込まずにチームに助けを求めることは、自身の成長だけでなく、チーム全体の効率や心理的安全性の向上にもつながります。

「こんなことを聞いたら恥ずかしい」「相手の邪魔になるのではないか」といった懸念は、リモート環境では特に強まりがちです。しかし、今回ご紹介したような「状況の共有から始める」「質問の粒度を小さくする」「非同期を意識する」といった小さな工夫を試すことで、SOSを出すことへのハードルを少し下げることができます。

「困っている状態」を早期に共有し、チームの知恵や経験を借りる勇気を持つこと。そして、助けを求める声を快く受け止め、協力する文化をチーム全体で育んでいくこと。これらが、リモートワーク環境における技術的な手詰まり感を乗り越え、より安心して開発に取り組むための鍵となると感じています。

もし今、あなたがリモートワークで技術的な壁に一人で向き合っているなら、完璧でなくても良いので、まずは小さな一歩としてチームに状況を共有してみてはいかがでしょうか。その小さなSOSが、問題解決の大きな突破口を開くかもしれません。