リモート安全体験談

リモートワークで体調不良を伝える心理的な壁:あるエンジニアの小さな実践談

Tags: リモートワーク, 心理的安全性, 体調管理, チームコミュニケーション, 報告・連絡・相談

リモートワークという働き方が定着し、多くのメリットを享受できる一方で、特有の難しさも存在します。その一つに、体調が優れない際に、チームに正直に状況を伝え、休息を取る判断をすることへの心理的なハードルがあるのではないでしょうか。

リモートワークでの体調不良報告の難しさ

オフィス勤務であれば、「顔色が悪いね」「つらそうだね、大丈夫?」といった声かけや、周囲の状況を見て「今日は早めに帰ろう」といった判断がしやすい側面がありました。しかし、リモートワークではお互いの物理的な状態が見えにくいため、体調の変化に気づかれにくく、また自分自身も「これくらいなら大丈夫だろう」と無理をしてしまいがちです。

特に、期限が迫っているタスクがある場合や、自分が担当する機能に責任を感じている場合、「ここで休んだらチームに迷惑をかけてしまうのではないか」「仕事が進まないことで評価が下がってしまうのではないか」といった不安が頭をよぎり、無理をして働き続けてしまう経験を持つ方もいらっしゃるかもしれません。

あるエンジニアの体験談:無理が招いたもの

私の同僚であるAさんも、以前、体調不良をチームに伝えられず、無理をして作業を続けた経験について話してくれました。彼は前日から微熱があり、頭も痛かったのですが、担当している機能の開発が佳境に入っていたため、「今日一日だけ頑張れば」と考え、無理をしてPCに向かいました。

チャットでのやり取りや、短いオンライン会議には参加しましたが、集中力は続かず、普段なら簡単に解けるはずの課題に時間がかかり、いくつかのバグも作り込んでしまったそうです。また、体調が悪いためか、いつもは積極的に行うチームメンバーへの声かけや情報共有も滞りがちになり、結果として、その日の彼の貢献度は普段よりも低下してしまいました。

さらに悪いことに、無理をしたことで体調はさらに悪化し、翌日は完全に休まざるを得なくなりました。結局、彼が一日目で無理をした作業は品質が悪く、他のメンバーが修正に時間を費やすことになり、結果的にチーム全体の進捗に遅れが生じることになりました。

Aさんはこの経験から、「体調が優れないのに無理して働くことは、自分にとってもチームにとってもプラスにならない」と痛感したと言います。そして、体調不良を正直に伝えることへの心理的な壁に、具体的にどう向き合うかを考えるようになりました。

体調不良を伝えることへの心理的な壁を理解する

Aさんが体調不良を伝えにくかった背景には、以下のような心理的な要因があったと語っています。

これらの心理的な壁は、リモートワーク環境における相互の状況の見えにくさや、成果に対するプレッシャーなどが複合的に影響していると考えられます。

心理的な壁を乗り越えるための「小さなアクション」

Aさんはこの経験を教訓に、体調が優れない時にどうすれば心理的なハードルを下げて正直に状況を伝えられるか、いくつかの小さなアクションを試みました。

  1. まずは「体調が優れない」と伝えてみる:

    • 最初から「休みます」と言うのが難しければ、「今日は少し体調が優れません」といった形で、まずは現在の状況を正直に伝えてみました。深刻さを伝える必要はなく、「普段とは少し違う」というニュアンスを共有するだけでも、心理的な負担が軽減されます。
    • チャットツールでチーム全体またはリーダーに、朝一に簡潔なメッセージを送ることから始めました。例: 「皆さん、おはようございます。申し訳ありません、今日は少し体調が優れないため、作業効率が落ちる可能性があります。適宜休憩を取りながら対応したいと思います。」
  2. 業務への影響度で判断する:

    • 「これくらいなら大丈夫」と自己判断するのではなく、「この体調で、求められる品質やスピードで業務を遂行できるか」という客観的な視点を持つようにしました。少しでも懸念があれば、迷わず状況を共有することを心がけました。
    • 具体的には、集中力が続かない、頭痛で思考がまとまらないなど、作業に明らかな支障があると感じたら、無理せず伝えるルールを自分の中で作りました。
  3. 「時間限定で作業する」「休憩を挟む」といった選択肢を提示する:

    • 完全に休むことが難しい場合でも、「午前中は〇〇の対応をしますが、午後は休息を取らせていただきます」「今日は一日、休憩を多めに挟みながら対応します」といった形で、できる範囲とそうでない範囲を明確に伝えるようにしました。これにより、「全く役に立てない」という罪悪感を減らすことができます。
  4. 日頃から体調変化の報告をオープンにする雰囲気を作る:

    • Aさん自身が、少しの体調変化でも隠さずにチームに伝えるようにすることで、他のメンバーも体調について話しやすくなる雰囲気作りを意識しました。「少し目が疲れたので休憩します」「今日は花粉症がひどいです」といったライトな共有から始めることで、深刻な体調不良の際にも伝えやすくなると考えたのです。
    • チーム内で、体調が悪ければ無理せず休息を取ることの重要性について、リーダーを含めて話す機会を作ることも有効な場合があります。

これらの小さなアクションを実践することで、Aさんは体調が優れない時に無理をせず、チームに正直に状況を伝え、必要な休息を取ることに抵抗がなくなっていったそうです。結果として、無理をして作業するよりも、早期に休息を取り回復に努める方が、自身の健康維持だけでなく、長期的な生産性やチームへの貢献にも繋がることを実感しました。

まとめ

リモートワークにおいて、体調不良を正直に伝えることは、個人の健康維持だけでなく、チーム全体の持続可能なパフォーマンスに不可欠です。体調が優れない時に無理をして作業を続けることは、ミスの増加やコミュニケーション不足を招き、結果としてチームに余計な負担をかける可能性を高めます。

体調不良を伝えることへの心理的な壁は多くの人が経験しうるものですが、「少し体調が優れない」とまずは伝えてみる、業務への影響度を基準に判断するなど、ご紹介したような「小さなアクション」から始めることで、そのハードルを下げることができます。

心理的安全性の高いチームは、メンバーが体調も含めた自身の状況を安心してオープンにでき、必要なサポートを求められる環境です。あなたが体調不良の際に正直に状況を伝える小さな一歩は、あなた自身の健康を守ると同時に、チーム全体の心理的安全性を高めることに繋がる可能性を秘めているのです。