リモートワークでメッセージの「温度感」が伝わらず不安になる時:あるエンジニアの小さな実践談
リモートワークが普及し、日々の業務連絡や相談の多くがチャットツールを通じたテキストベースで行われるようになりました。対面での会話とは異なり、相手の表情や声のトーンから感情やニュアンスを読み取ることができないため、テキストコミュニケーション特有の難しさに直面する場面も少なくないかと思います。特に経験数年目のエンジニアとして、チームや他のメンバーとの連携を深めたい、貢献したいと考える中で、テキストでのやり取りが原因で生じる不安は、心理的安全性を損なう要因の一つとなり得ます。
テキストメッセージが生んだ「伝わっていないのでは?」という不安
私自身、リモートワーク開始当初、テキストコミュニケーションに漠然とした難しさを感じていました。ある時、進捗報告を簡潔に済ませようと必要最低限の情報だけをチャットで送ったのですが、後になってチームリーダーから「もう少し状況を詳細に共有してもらえると助かります」と言われたことがありました。私としては効率を意識したつもりだったのですが、受け取る側にとっては情報が不足しており、状況を把握しづらいと感じさせてしまったようです。
また別のケースでは、少し懸念している事項について、角を立てないように柔らかく表現してチャットを送ったのですが、全く重要視されていないように見えてしまい、「この問題意識はチームに共有すべきではないのだろうか」「自分の感覚がずれているのだろうか」と、発言すること自体に躊躇が生まれるようになりました。
これらの経験から、「自分の書いたテキストが意図通りに伝わっていないのではないか」「無用な誤解を生んでいるのではないか」という不安が募り、チャットを送る前に文章を何度も推敲したり、結果として発言を控えてしまったりすることが増えました。これが続くと、チーム内での自分の存在感が薄れるような感覚や、孤立感を覚えるようになり、心理的な負担となっていきました。
テキストコミュニケーションの壁と心理的安全性
リモートワークにおけるテキストコミュニケーションの難しさは、非言語情報が欠落している点にあります。対面であれば、笑顔や頷き、声の抑揚などで伝わるポジティブな意図や共感が、テキストだけでは表現しきれません。また、相手がいつメッセージを読むか分からない非同期性も、すぐに意図を確認したり、誤解を解消したりすることを難しくします。
このような環境で、自分の発言がネガティブに捉えられることを恐れたり、メッセージの意図が正しく伝わらないかもしれないという不安を抱えたりすることは、チームにおける心理的安全性を低下させます。発言を控えるようになると、必要な情報共有が滞ったり、問題の早期発見が遅れたりする可能性も出てきます。
不安を和らげるために試した小さな実践
このような状況を改善するために、私はいくつかの小さなアクションを試みました。
1. 意図や背景を補足する一文を加える
簡潔さを意識するあまり情報を削りすぎると、誤解を招く可能性があると学んだため、メッセージの冒頭や末尾に、そのメッセージを送る意図や背景を補足する一文を加えるようにしました。
例えば、「〇〇の件について、現状と今後の見通しを共有させてください」「△△の件について質問があります。ご存知の方がいれば教えていただけますでしょうか」のように、何についてのメッセージで、何を求めているのかを明確にすることで、相手がスムーズに内容を理解しやすくなります。また、懸念事項を伝える際も、「現時点で〇〇の点が少し気になっています。今後の進め方について皆さんのご意見を伺いたいです」のように、単なる指摘ではなく、議論や相談を促す形にすることで、建設的なコミュニケーションに繋がりやすくなりました。
2. ポジティブな感情や感謝を伝える表現を意識的に使う
テキストだけでは感情が伝わりにくいと感じたため、ポジティブな感情や感謝を伝える表現を意識的に使うようにしました。具体的には、
- 相手の協力に対して:「助かります!ありがとうございます!」
- 情報を得たことに対して:「〇〇、承知いたしました。詳細な情報ありがとうございます。」
- 確認してもらったことに対して:「ご確認いただきありがとうございます。」
といった、短い感謝や確認のメッセージを、以前より頻繁に送るようにしました。また、チームによっては、適切な絵文字やスタンプも活用することで、テキストだけでは伝わりにくい「安心感」や「親近感」を醸成できる場合があります。ただし、これはチームの文化や相手のスタイルに合わせることが重要です。
3. 複雑な内容やデリケートな内容はテキストだけに頼らない
どうしてもテキストだけでは伝えきれないと感じる、複雑な内容やデリケートな内容については、必要に応じて短い音声メッセージや一時的なビデオ通話を活用する選択肢も視野に入れるようにしました。チャットで「〇〇の件、少し込み入っているので、後ほど5分ほどお時間いただけますでしょうか?」と打診するなど、テキストを入り口としつつ、よりリッチなコミュニケーション手段に切り替えることで、意図の齟齬を防ぐことができます。
小さなアクションがもたらした変化
これらの小さなアクションを続けることで、チャットを送る際の「どう書けば伝わるだろう」という過度なプレッtシャーが軽減されました。メッセージの意図が相手により正確に伝わるようになったと感じる場面が増え、結果として、チャットでの発言に対する不安が和らぎました。また、自分自身がポジティブなリアクションを増やすことで、チーム内のコミュニケーションが少し円滑になったようにも感じています。
リモートワークでのテキストコミュニケーションは、確かに難しい側面がありますが、少しの工夫でその質を向上させることが可能です。もし、テキストメッセージでのやり取りに不安を感じることがあれば、今回紹介したような小さなアクションを試してみてはいかがでしょうか。一つ一つの実践が、リモート環境での心理的安全性を高める一助となることを願っています。