リモートで「なんとなく分からない」を抱え込まないために:あるエンジニアの小さなアクション
リモートワークで「なんとなく分からない」が積み重なる時
リモートワーク環境では、オフィス勤務のように気軽に隣の席の同僚に声をかけたり、会議室を出たところで質問したりといった偶発的なコミュニケーションが難しくなります。特に、仕様やタスクに関する「これって、どういうことだろう?」「どう進めるのが正しいんだろう?」といった、まだ漠然とした疑問や不明点が生じた際に、すぐに質問するのをためらってしまう経験は、多くのエンジニアがされているかもしれません。
「こんな簡単なこと、聞いてもいいのだろうか」「自分で調べれば分かるはずだ」「他の人は忙しそうだし、迷惑かな」といった考えが頭をよぎり、つい疑問をそのままにしてしまうことがあります。その結果、小さな不明点が積み重なり、作業の手戻りが発生したり、チームの他のメンバーとの認識にずれが生じたりするケースも少なくありません。
抱え込んで失敗した体験談
私自身も、リモートワークに移行した初期の頃、こうした「なんとなく分からない」を抱え込んで失敗した経験があります。ある機能改修のタスクを進める上で、いくつかの処理について仕様書の記述が腑に落ちない点がありました。しかし、担当者は忙しそうに見えましたし、「自分でコードや関連ドキュメントを読めば理解できるだろう」と考え、安易に質問するのを避けてしまいました。
数日かけて調査を進めましたが、結局明確な答えは見つけられず、自己流の解釈で実装を進めてしまいました。その後のコードレビューで、その部分の実装がチームの共通認識や本来の仕様と大きく異なっていることが発覚しました。結局、かなりの手戻りが発生し、スケジュールに遅延を招いてしまいました。この時、「あの時、早めに聞いておけばよかった」と強く反省しました。同時に、リモート環境でも安心して「分からない」と言える、そして「どうすれば効率的に疑問を解消できるか」という心理的安全性の重要性を痛感しました。
「なんとなく分からない」を解消するための小さなアクション
この経験から、私はリモートワークで生じる漠然とした疑問や不明点を抱え込まないための小さなアクションを意識的に取り入れるようになりました。
1. 疑問点を具体的に言語化する練習
頭の中にある「なんとなく分からない」という感覚を、少しでも具体的な言葉にしてみることから始めました。「〇〇の処理の意図がよく分からない」「××のパラメータの使い分けを知りたい」など、まずはチャットツールや個人のメモ帳に書き出してみます。この言語化のプロセス自体が、問題の所在を明確にする手助けになります。
2. 質問の粒度を小さくする
完全に理解してから質問しようとせず、「この点だけ」「この用語の意味だけ」というように、質問の粒度を極力小さくすることを意識しました。小さな質問であれば、相手も回答しやすく、自分も質問へのハードルが下がります。
3. 非同期ツールでの質問を工夫する
チャットツールで質問する際には、以下の点を盛り込むようにしました。 * 何をしようとしているか(目的) * 何が分からないか(具体的な疑問点) * 自分なりにどこまで調べたか(試したこと、考えられること) * 何を知りたいか(求めている回答の形、例: 仕様の解釈、推奨される進め方、参考資料など)
例:「〇〇機能改修タスクで、Aという処理の実装を進めています。仕様書P.xxの△△に関する記述について、『〜〜する』とありますが、これはエラー時も含まれるのか、正常系のみを指すのかが不明確です。関連コードや既存ドキュメントを検索しましたが、明確な記載を見つけられませんでした。この記述の意図をご存知でしょうか? または、確認すべき別の情報源があればご教示いただけますと幸いです。」
このように情報を整理することで、質問された側も状況を把握しやすく、的確な回答を得やすくなります。すぐに返信が来なくても、情報を整理したことで自分の中で別の解決策が見つかることもありました。
4. 短い時間で同期的に話す機会を活用する
チャットだけではニュアンスが伝わりにくい場合や、いくつかの疑問点が関連している場合は、「5分だけお時間をいただけますでしょうか? △△について少しお伺いしたいことがあります」のように、短いオンラインミーティングを設定することも有効です。あらかじめ話したいことを箇条書きにしておくと、短い時間でも効果的に質問できます。
小さなアクションがもたらす変化
これらの小さなアクションを継続したことで、「なんとなく分からない」を抱え込む時間は劇的に減りました。疑問点が解消されることで、自信を持ってタスクを進められるようになり、手戻りも減少しました。また、質問を通じてチームメンバーとのコミュニケーションが増え、プロジェクト全体の理解が深まる感覚も得られました。最初は勇気が必要でしたが、小さな質問でも真摯に答えてもらえる経験を積み重ねることで、安心して「分からない」と言える心理的な安全性が自分の中に構築されていくのを感じています。
まとめ
リモートワークにおける「なんとなく分からない」という感覚は、放置すると孤立感や非効率につながる可能性があります。しかし、疑問点を具体的に言語化し、質問の粒度を小さくし、非同期ツールや短い同期的なコミュニケーションを効果的に活用するといった小さなアクションを意識することで、これらの課題を乗り越えることができます。
「分からないことを聞くのは悪いことではない」「早期に疑問を解消することは、チーム全体の効率向上に貢献する」という意識を持つことが重要です。そして、そうした行動を促すような、お互いに質問しやすいチームの雰囲気作りもまた、リモート環境における心理的安全性を高める上で不可欠であると言えるでしょう。