リモート安全体験談

リモートワークで日々の貢献が評価に反映されるか不安になる時:あるエンジニアの小さな工夫

Tags: 心理的安全性, リモートワーク, 評価, 貢献, コミュニケーション

はじめに:リモートワークにおける評価の不透明感

リモートワークが普及し、働く場所やスタイルが多様化する一方で、新たな心理的な課題も生まれています。その一つに、「自分の日々の働きや貢献が、オフィスにいた頃のようにチームや会社に伝わっているのか」「それが適切に評価に反映されるのか」という不安があります。特にソフトウェアエンジニアは、コードを書くことだけでなく、レビュー、ドキュメント整備、後輩へのサポート、他チームとの連携など、多岐にわたる貢献をしています。しかし、リモート環境ではこれらの「見えにくい貢献」が、意図せず埋もれてしまいがちです。

こうした状況が続くと、「自分は正当に評価されていないのではないか」という疑念や、「もっと頑張らなければ」という焦りが生じ、心理的な負担となってしまうことがあります。これは、心理的安全性が損なわれている状態とも言えるでしょう。今回は、このようなリモートワークでの評価に関する不安に直面した一人のエンジニアの体験談と、そこから見出された「小さな工夫」をご紹介します。

あるエンジニアが感じたリモートワークでの評価に関する不安

都内のIT企業でソフトウェアエンジニアとして働く山田さん(仮名、経験5年目)は、コロナ禍を機にフルリモートワークに移行しました。当初は通勤時間がなくなり、作業に集中できる環境に満足していましたが、しばらくすると漠然とした不安を感じ始めました。

それは、自分の日々の働きが見えにくいことへの不安でした。オフィスにいた頃は、隣の席の同僚にちょっとした技術的な質問に答える姿や、チームメンバーの困りごとを自然とサポートしている様子が、チーム全体に伝わっていたと感じていました。しかし、リモートワークでは、これらのやり取りは特定のチャットのプライベートメッセージで行われたり、短時間のオンラインミーティングで完結したりするため、他のメンバーやマネージャーの目には触れにくくなったのです。

プルリクエストでのレビューコメントも、以前よりは具体的なフィードバックを心がけていましたが、「コード量」や「完了したタスク数」といった定量的な成果に比べて、「チーム全体のコード品質向上への貢献」や「レビューを通じてチームメンバーの成長を促したこと」といった定性的な貢献が、どれだけ評価に繋がるのかが分からず、不安を感じるようになりました。

特に、半期に一度の目標設定や評価面談が近づくにつれて、この不安は大きくなりました。「自分はちゃんと成果を出しているのだろうか」「この半期で何をアピールすれば良いのか」といった疑問が頭をよぎり、普段の業務にも集中しきれない日が増えていったそうです。

不安を乗り越えるための「小さなアクション」

山田さんはこの不安を解消するために、いくつかの小さな工夫を試みました。

1. 日々の貢献を「見える化」する記録習慣

まず始めたのは、日々の業務内容だけでなく、そこで得られた成果や、チームへの貢献を意識して記録することです。タスク管理ツールのコメント欄や、個人用のシンプルなテキストファイルなど、フォーマットは問いませんでした。

例えば、「〇〇機能の実装完了」というタスクだけでなく、 * 「この実装により、ユーザーからの問い合わせ件数が週にX件削減できる見込み」 * 「このプルリクエストレビューで、潜在的なバグY件を早期に発見し、リリースリスクを低減できた」 * 「新機能Zに関するドキュメントを整備し、開発チーム全体の理解度向上に貢献した」 * 「困っていた△△さんに〇〇についてアドバイスし、タスク完了をサポートした」

といった形で、自分が何をしたかだけでなく、それによってどんな良い影響があったかを具体的に記述するようにしました。最初は面倒に感じたそうですが、数週間続けるうちに、自分の日々の働きの中に、自分では当たり前だと思っていたけれども、実はチームや会社にとって価値のある貢献がたくさんあることに気づきました。

2. チーム内での情報共有を意識的に増やす

次に、自身の取り組みや成果をチームメンバーに伝える機会を増やすようにしました。

これにより、自分の働きがチーム内で認識される機会が増え、孤立感が軽減されるとともに、「自分はチームに貢献できている」という自己肯定感にも繋がりました。

3. 1on1を「貢献を伝える機会」として活用する

山田さんのチームでは月に一度、マネージャーとの1on1が実施されていました。以前は業務の進捗報告や課題の相談が中心でしたが、記録習慣で整理した自身の貢献を、1on1の場で具体的に伝えるようにしました。

例えば、「この半期で特に力を入れたのは、〇〇機能の実装と、△△に関する技術的負債の解消です。特に技術的負債の解消については、直接的な機能追加ではありませんが、将来的な開発効率向上に大きく貢献できると考えています。具体的には、XXXという問題が解消され、YYY時間の開発工数削減に繋がる見込みです」といったように、記録に基づいた客観的な情報とともに伝えました。

また、「リモートワークになってから、自分のやっていることがチームに伝わっているか少し不安を感じています。特に〇〇のような貢献は、意識しないと見えにくいかと思いますので、もしよろしければ定期的にフィードバックをいただけますでしょうか」と、自身の不安な気持ちと、マネージャーへの要望を率直に伝えたこともあったそうです。マネージャーも、山田さんの貢献内容を具体的に把握できるようになっただけでなく、不安を感じていること自体を知れたことで、その後のコミュニケーションを改善するきっかけになったと言います。

まとめ:見えにくい貢献も、可視化とコミュニケーションで伝える

リモートワーク環境下では、オフィスに比べて偶発的なコミュニケーションが減り、日々の「見えにくい貢献」が認識されにくくなる傾向があります。これは多くのエンジニアが経験しうる心理的な課題です。

しかし、今回ご紹介した山田さんのように、自身の働きや貢献を意識的に記録し、チーム内や評価者に対して具体的に伝える「小さなアクション」を積み重ねることで、この不安は大きく軽減できます。自身の価値を適切に可視化することは、心理的な安定に繋がるだけでなく、正当な評価を得るためにも重要なステップです。

また、チーム全体で心理的安全性を高め、「お互いの見えにくい貢献」を認め合い、気軽にフィードバックし合える文化を醸成していくことも、リモートワークにおける評価不安を解消する上で非常に有効です。もしあなたがリモートワークで評価に対する不安を感じているのであれば、まずは今日から自身の小さな貢献を記録することから始めてみてはいかがでしょうか。