リモートワークで「何をやっているか分からない」と言われたくない心理:あるエンジニアの小さな実践談
はじめに:リモートワークで感じる「貢献が見えにくい」不安
リモートワークが普及し、働き方の柔軟性が増した一方で、新たな心理的な課題に直面することも少なくありません。特に、チームから離れて一人で作業していると、「自分の進捗や貢献がチームに見えているのだろうか」「ちゃんと評価されているのだろうか」といった不安を感じることがあります。経験数年程度のエンジニアにとって、チームへの貢献を通じて自身の成長や価値を確認することは重要ですが、リモート環境ではその確認が難しく、漠然とした不安や焦りにつながる場合があります。
あるエンジニアが感じた不安と直面した課題
私もリモートワークで働く中で、同様の不安を感じた経験があります。オフィス勤務時は、隣の席の同僚がどんな作業をしているか自然と把握できたり、休憩中に進捗を気軽に話したりすることができました。しかし、リモートになってからは、テキストベースのやり取りが中心となり、自分の作業状況や考えていることが、意図的に発信しない限りチームに伝わりにくいと感じるようになりました。
特に、仕様検討や調査に時間を費やしている期間など、目に見える成果物がすぐに出ない時には、「自分はちゃんとチームに貢献できているのだろうか」という不安が強くなりました。また、ある時、チームリーダーから「〇〇さん、最近どんなことやってるの?」と聞かれた際に、うまく現状を説明できず、後になって「もしかして、自分がサボっていると思われたのではないか」と勝手に不安になったこともあります。この経験から、リモートワークでは意識的に自分の状態や貢献を伝える努力が必要だと痛感しました。
不安を乗り越えるための小さな実践
この不安を解消し、チームにおける心理的な安全性を高めるために、私はいくつか小さなアクションを試みました。
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非同期ツールでの daily update の徹底: これまでも簡単な報告はしていましたが、より具体的に「今日やること」「今日やったこと」「困っていること/共有事項」を、毎朝と終業前にチャットツールで共有するようにしました。特に「困っていること/共有事項」をオープンにすることで、早期にチームの助けを得られるだけでなく、「自分は今ここに時間を使っている」という状況を共有できるようになりました。 ``` # daily_update チャンネル 山田です。
今日やること: - 新規機能XXの設計ドキュメント作成 (〜15:00) - YYバグの調査と修正
今日やったこと(終業前報告の例): - 新規機能XXの設計ドキュメント、基本構成をドラフト作成完了。明日以降、詳細化とレビュー依頼を予定。 - YYバグ、原因特定まで完了。明日修正予定です。
困っていること/共有事項: - XX機能の仕様に関して、△△さんと少し認識合わせをしたいです。後ほどお声がけします。 ``` このような形式で共有することで、チームメンバーは私が何に時間を費やしているのか、何で困っているのかを把握しやすくなりました。
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「考え中」「調査中」の状態を可視化: コードを書いている時だけでなく、設計や調査で思考を巡らせている時間も、チームへの貢献の一部です。これらの目に見えにくい作業についても、例えば「〇〇の件、いくつか実現方法を調査しています」「この設計で考えられるリスクを洗い出しています」といった中間報告を意識的に行うようにしました。これにより、すぐに成果物がなくとも、思考プロセスや検討状況を共有できるようになりました。
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「できたこと」を小さく具体的に共有: 大きな機能が完成するまで待つのではなく、例えば「〇〇のAPI連携部分のプロトタイプが動きました」「YYの単体テストコードをZZ件書きました」といった小さな「できたこと」を積極的に共有しました。プルリクエストを出す際も、変更内容だけでなく、その背景や意図、工夫した点などを詳細に記述するようにしました。これにより、自分の貢献が具体的なアウトプットとしてチームに伝わりやすくなりました。
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チームメンバーへの興味を持つ: 自分が一方的に発信するだけでなく、チームメンバーが何に困っているか、どんなことを達成したかに興味を持ち、リアクションしたり質問したりするよう努めました。双方向のコミュニケーションが増えることで、チーム全体の状況が見えやすくなり、自分の位置付けを客観的に把握しやすくなったと感じています。
実践から得られたこと
これらの小さな実践を続けることで、まず自分自身の不安が軽減されました。「自分はちゃんとやっている」という手応えを感じられるようになったからです。また、チームメンバーからも「最近何やってるか分かりやすくていいね」「困ってること、気軽に言ってね」といったポジティブなフィードバックをもらえるようになり、チームにおける自分の心理的な安全性、すなわち「このチームにいて安心できる」「自分の意見や状況を安心して開示できる」という感覚が高まりました。
リモートワークでは、意図的なコミュニケーションと自身の状態・貢献の可視化が、心理的な安全性を保つ上で非常に重要であることを学びました。
まとめ:小さな一歩が信頼につながる
リモートワーク環境で「自分の貢献が見えにくい」と感じる不安は、多くのエンジニアが抱える共通の課題かもしれません。しかし、日々の小さな報告を欠かさないこと、目に見えにくい思考や調査のプロセスも共有すること、そして「できたこと」を具体的に伝える努力をすることなど、身近なアクションから始めることができます。
これらの小さな実践は、自分自身の不安を和らげるだけでなく、チームメンバーとの信頼関係を築き、チーム全体の心理的安全性を高める一助となります。リモートワークでの働き方に悩んでいる方がいれば、ぜひ今日から小さな一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。