リモートワークで新しい技術に挑戦しにくい心理:小さな一歩の踏み出し方
リモートワークで新しい技術に挑戦しにくい心理:小さな一歩の踏み出し方
リモートワークが一般的になる中で、私たちは様々な働き方のメリットを享受できるようになりました。しかしその一方で、オフィスで働く環境とは異なる心理的な壁に直面することもあります。特に、新しい技術の学習や、これまで経験したことのない分野への挑戦となると、一歩を踏み出すことにためらいを感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
リモート環境では、ちょっとした疑問を気軽に尋ねる「F2F(対面)の雑談」が減少し、失敗した際のリカバリープロセスが見えにくくなることがあります。これにより、「もし失敗したらどうなるのだろう」「誰かに迷惑をかけないだろうか」といった不安が増幅され、結果として新しい挑戦から遠ざかってしまう心理が働くことがあります。
本稿では、リモートワークにおけるこのような「新しい技術への挑戦をためらう心理」に焦点を当て、そこから抜け出し、心理的安全性を感じながら挑戦を続けるための具体的な考え方や小さなアクションについて、いくつかの体験談を交えながらご紹介いたします。
あるエンジニアの「新しい技術の壁」体験談
経験数年のあるソフトウェアエンジニアは、自身の担当プロダクトで新しいフレームワークを導入することを検討していました。しかし、そのフレームワークはチームメンバーの誰もが利用した経験がなく、社内にも詳しい人がほとんどいませんでした。
オフィス勤務であれば、休憩時間やランチタイムに「こういうこと試してるんだけど、何か知ってる?」と気軽に話しかけたり、画面を見せながら相談したりできたかもしれません。しかしリモート環境では、非同期コミュニケーションが中心となり、フォーマルな会議をセッティングするか、チャットでメッセージを送る必要があります。
このエンジニアは、「もし質問が的外れだったらどうしよう」「導入を進めてみたけどうまくいかず、時間を無駄にしたらどう評価されるのだろう」といった不安を感じていました。チャットで質問を投げかけることにも抵抗を感じ、結局、慣れ親しんだ既存技術の範囲内で問題を解決しようとしました。結果として、新しい技術によるより良い解決策や自身の成長の機会を逸してしまったと感じています。
小さな一歩で心理的な壁を乗り越える
上記の体験談のように、リモートワークでは「失敗への恐れ」や「質問のしづらさ」が、新しい挑戦への心理的な壁となり得ます。しかし、こうした壁は、考え方や行動を少し変えることで乗り越えることが可能です。重要なのは、「完璧な成果」や「スムーズな進行」を目指すのではなく、「小さく試すこと」に焦点を当てることです。
別のエンジニアの例をご紹介しましょう。このエンジニアも、未知の技術導入を検討する際に同様の不安を感じていました。そこで彼が実践したのは、以下の「小さなアクション」です。
- 目標を「学習」または「試行」と定義する: いきなり本番環境への導入を目指すのではなく、「この技術で簡単なプロトタイプを作ってみる」「チュートリアルを完遂してみる」など、失敗しても影響が少ない範囲で目標を設定しました。
- チームに「実験していること」を共有する: チームのデイリースクラムや週報などで、「現在、〇〇という技術について学習を進めており、簡単な検証を行っています」と共有しました。これにより、もしうまくいかなくても「失敗した」というよりは「検証の結果、〇〇がわかった」という報告として受け止められる土壌を作りました。
- 非同期ツールを「気軽な質問箱」として活用する: チーム内のチャットツールに「技術雑談チャンネル」のようなものがあれば、そこで「〇〇のドキュメントで詰まっているところがあるのですが、どなたかヒントをお持ちでしょうか?」といった具体的な質問を、相手の都合の良いタイミングで返信してもらえる形で投げかけました。専用チャンネルがなければ、自分の状況を共有するスレッドを立てることも有効です。
- 「分報(ふんぽう)」を始めてみる: 自身の作業状況や考えていること、詰まっていることなどを細かく、かつ気軽に発信する「分報」を始めました。これにより、チームメンバーが自分の関心や状況を知ることができ、偶発的なサポートや情報提供を受けやすくなりました。
これらの小さなアクションを積み重ねることで、このエンジニアは新しい技術への挑戦に対する心理的なハードルを下げることができました。「いきなり大きな成果を出さなければ」というプレッシャーから解放され、学習プロセス自体を楽しむことができるようになったのです。また、試行錯誤の過程をチームに共有することで、周囲からの共感や協力も得やすくなり、心理的な安全性の中で挑戦を続けることが可能になりました。
まとめ
リモートワーク環境での新しい技術への挑戦は、オフィス勤務とは異なる心理的な難しさを伴うことがあります。しかし、それは乗り越えられない壁ではありません。
「完璧」を目指すのではなく、「小さく試す」ことから始め、そのプロセスをチームと適切に共有すること。非同期コミュニケーションツールを活用して、気軽な情報交換や質問ができる仕組みを自分から作り出すこと。そして、「失敗は学びの機会である」と捉え、結果だけでなく挑戦そのものを価値あるものとして受け入れること。
これらの小さな一歩が、リモートワークにおける新しい技術への挑戦に対する心理的な安全性を高め、私たちエンジニア自身の成長とチームへの貢献に繋がっていくと信じています。
もし今、あなたが新しい技術に挑戦しようか迷っているのであれば、まずは一番小さな一歩から踏み出してみてはいかがでしょうか。